社員を巻きこむ経営指針づくり入門編

経営指針は経営者のひとりよがりではダメ。 つくるたびに社員の参画率を高める工夫をしましょう。 社員の夢を実現することが、会社の存在価値を最大化させることと一致する。 けっきょくそんな設計図にするのがいちばんラクなので。


ストーリーを意識してるか?

経営指針書は、
個々のパーツを作りこむことも大切ですが、
つねに全体の骨組みを意識することが大切。
図で説明しましょう。
中小企業家同友会全国協議会経営指針作成の手引きで、
いちばんはじめに出てくる図です。
経営指針成文化の枠組み
(1)
社員ひとりひとりが、
いま、なにをすべきかわかる。
(2)
明日に向かって、
なぜいまそれをするのかがわかる。
(3)
しかもそれは、
自分のやりたいこととかなり近いとわかる。
(4)
それをやって成果を出せば、
どんないいことが起こるかわかる。

──経営指針書がそんなふうにできていたら、
ほっといたって社員は巻きこまれてくれます。
経営指針書づくりに際しては、
ストーリー

意識しましょう。
というのも、
できあがった経営指針書をチェックさせてもらうと、
前半と後半がバラバラで、
いったいなにが言いたいのか、
さっぱりわからないケースがものすごく多いからです。
これでは社員さんがシラけてしまうのも当然。
図では上から、
 理念 → 方針 → 計画
という流れになってますが、
実際の経営指針書では、
これがまえからうしろに流れます。
まえのほうはマインド寄り。
うしろへいくほどアクション寄りと覚えてください。
理念を → 現実に
想いから → 実践へ
夢を → カタチに
計画は → 実行

どんな会社にしたいのか?
っていう経営者の想いからスタートして、
だからみんなこっち向いて進んでいくんだぞ~っ
っていう順番です。

だから社員がずっこける!

それを数字であらわすとこんなもんじゃ!
っていう売上目標や利益目標がガツーンと次に続きます。
じゃあその想いや数値目標を、
いったいどんなふうに実現していくつもりか

っていう具体的な戦略の説明に入ります。
その中で、
自社の事業を明確に定義するとともに、
「自社の強み」について必ず触れる。
(図の中で「自社の経営力評価」の部分です。)
先に掲げた目標がじゅうぶん達成可能であることを
社員さんが理解できなければなりません。
その説明のために「外部環境分析」も入れてください。
(図では「経営環境分析」となっています。)
自分の会社に期待しているお客さんがどれくらいいて、
どんなライバルがいて、
地域や行政はどれくらい応援してくれそうか、
など、
全体の中での自分たちのポジションを社員さんに伝えます。
図ではまだ「経営方針」の途中なんですが、
ひとまず、
ここまでを前半としましょう。
前半で示した方向へ進んでいくにあたり、
どんな課題があるかを整理し、
後半で具体的に掘り下げていきます。
会社としてはそっちのほうへ進みたいんだけれども、
進めないかもしれない事情の数々
ですね。
経営課題の洗い出し
です。
いままで取り組んでこなかった言い訳みたいなもの?
ではないんですけど、
そのほうが書きやすいならそう考えてください。
はじめてつくる場合は、
課題を2つか3つに絞って並べてみるのがよいと思います。
で、次に、
その課題のそれぞれについて、
個別方針を述べていきます。
たとえば次の2つが経営課題だとします。
1)新商品「アキバーレ」の販路開拓
2)チェンマイ工場におけるワーカー確保

そうすると個別方針は
1)新商品「アキバーレ」の販路開拓についての個別方針
2)チェンマイ工場におけるワーカー確保についての個別方針

というように、
経営課題と個別方針をはっきり対応させたほうが断然スッキリします。
ここで出てくる課題については、
なぜこれが優先して取り組むべき課題なのか?
客観的に理解できるように、
経営指針書前半の経営方針(経営戦略を含む)の中で、
きちんと示されていなければなりません。
経営理念の中で「地域文化との融合」が謳われ、
前半の方針の中で、
さんざん「地域に密着した顧客サポートの強化」という方針を打ち出しておきながら、
経営課題の初っ端が「グローバリゼーションへの対応」だとするとどうです?
なにこれ?
指針書の前半にはグローバリゼーションの「グ」の字もないし、
輸出入にも関係ない会社で国際戦略も何もないってのに、
なんでイキナリ最優先課題がグローバリゼーションなのさ?
って、
社員はずっこけてしまいますね。
笑いごとではありません。
そんな経営指針書がほんとうに多いんですから。
自分のつくった経営指針書もそうなっているということに、
なぜか自分じゃ気づかないだけです。
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口約束とはちがうんだぞ

さて(ё_ё)
前半部分と整合性のある個別方針が決まれば、
あとはそれを現場のリーダーに委ね、
行動計画を立ててもらいます。
戦略から戦術へ
ブレイクダウンしていくわけですね。
あー、ここで、
ブレイクダウンする
っていうのがキーワードになります。
あとで説明しますから覚えておいてください。
全社の数値目標についても、
それぞれの部門長がそれぞれの数値目標に落としこみます。
幹部社員が、
勝手な目標を上から押しつけられたと感じるか、
自分の部署ががんばれば組織に貢献できると感じるか、
そこ、
すごく肝心なポイントなんですけど、
それは経営指針書前半の想いがどこまで幹部に伝わっているかで決まります。
>この粗利の目標値はどこから出てきたか?
>部署Aと部署Bが統合されることになった、
>その理由はなにか?
>C工場の稼働率が異常に高く設定されている根拠は?

‥‥といったことのひとつひとつに、
経営指針書の前半部分が答えていなければなりません。
口で説明しろって言われたらできるんだけども、
活字にして文章で書くっていうのがむずかしいんだよ~!

‥‥って
おっしゃる気持ちもよくわかるんですが、
書いて記録に残すことにひとつの大きな意味があります。
経営指針成文化
とは、
あなたの約束することが、
証拠として社員の手元に残ることを意味しています。
口約束とはちがうってことです。
もちろん、
あなたがしゃべっているところを録画して、
DVDに入れて全社員に配布したとすれば同じことですが‥‥
カメラとマイクのまえで宣誓できますか?
作文が苦手だということを口実にして、
約束から逃げていませんか。
とにかく、
経営指針書は作成の過程で、
社員さんの意見によく耳を傾けましょう。
はじめてつくる経営指針書は、
どうしても社長のひとり芝居になりがち
です。
社員さんの参画率ゼロ
つくりきるだけで精いっぱいですからしかたがないんです。
ですからそれをいきなり大上段に振りかざし、
会社で大げさな発表会を開いたりしてはいけません。
幹部社員の半分が辞めてしまった
というような事態はここで起こります。
2年め、3年め‥‥と、
じわじわ社員の参画率を上げていくつもりで
腰を据えて取り組んでいただくのがよろしいかと。

DKDCシンドロームで会社が崩壊!

 苦労して経営指針をつくったが、全社に浸透しないという悩みをよく聞きます。原因はいろいろありますが、典型的な原因として次の二つが考えられます。その一つは経営指針が経営者やごく一部の役員だけでつくられ、作成の過程で一般社員の声が反映されていないことです。今一つは、業務の忙しさにかまけて、トップから一般社員に至るまで、日常の仕事が経営指針との関連を見失っていることです。
 経営指針は今まで述べてきたように経営理念→経営方針・戦略→中期計画→単年度計画→部門計画→個人目標という一つの体系をなしているものですから、各個人の日常の仕事は必ず経営指針の中で位置づけて考えることができるはずです。またこの位置づけを意識的に行う必要があります。そうすることによってはじめて一人ひとりの社員は日常の仕事を通じて、経営指針を身につけることができるのです。中小企業家同友会全国協議会「経営指針作成の手引き」第五章より

体系という言葉が出てきますが、
ここ、
よろしいでしょうか。
自社の経営指針書が体系づけられているかどうか、
簡単にチェックする方法のひとつとして、
前半に出てきた魂のキーワードが、
後半に入っても反復しているかを見返してほしいんです。
経営理念ばっかり立派で、
それがけっきょくどんなふうに実現されていくのか、
よくわからない経営指針書があります。
事業承継を数年後に控えた二代目さんとかに特に多いんですが、
頭でっかち‥‥というか、
夢でっかち
なんですねε=( ̄。 ̄;)
経営課題を洗い出すところまでは進むが、
それを解決するための実行部隊が動いてくれず、
何年も同じ課題を引きずっている会社もたくさんあります。
DKDCシンドローム
ってごぞんじでしょうか?
経営指針書をつくってまもない会社の社員さんがほとんど感染するという、
恐ろしい症候群です。
わたしが発見してここで初めて発表しますから、
ごぞんじなくてあたりまえなんですけど‥‥
それはどんな状態か?
あるとき突然、
自分たちの社長が、
なにかに取り憑かれたように理念や事業ドメインを語り出し、
戦略策定だの組織再編成だのと妙にアツい。
どっかの変な宗教?
‥‥ではなさそうだ。
そんなとき、
感想を求められた社員さんたちは、
絶対に正直に答えることはないでしょうけども、
心の中はみなさん同じ。

だからけっきょくどうせえっちゅうねん?

思っているんです。
たとえば、
下請け体質を脱却するぞ!
っていう方針を100回聞かされたとしても、
それを朝礼で毎日唱和させられたとしても、
>わかったわかった、
>それはわかった。
>しかしなぁ、
>だからけっきょくどうせえっちゅうねん?

っていうふうに
心がシラけている。
だからどうするか、けっきょくどうするか、
それまで細かく言わないと行動に移れない。
>いや、そんなことない。
>あいつらは従業員や。
>こっちは給料を払って雇ってるんやから、
>社長がやれと言うことを粛々とやったらええ。

‥‥と
そんなふうに思われるかもしれせんが、
社員を巻きこめなかったら、 けっきょくしんどいのは社長のあなたです。
たとえ立派な理念や戦略があったとしても、
今日、たったいま、
なすべき行動が社員に浸透しないから成果が出せない状態を
DKDCシンドローム
と呼ぶのです。
※DKDC = (ダカラ)(ケッキョク)(ドウセエッ)(チュウネン)
そんなわけで
ブレイクダウンってやつが重要になってきます。
さきほどの図とよく似た図をもうひとつ見てください。
これも「経営指針作成の手引き」に載ってます。
経営指針づくりと目標管理
「部門計画」から「個人目標」に伸びている矢印、
ここがミソです。
理念だけでは社員は動けません。
「そのためにはどうすれば?」を突きつめる必要があるのです。
突きつめて突きつめて、
徹底的に突きつめた果てに、
「いま、ここで、あるいはこの次に 自分はどうすべきか?」

対する答が出てくるのです。
環境整備を徹底するように──

指示さえ出しておけば環境整備が進むと思うのは浅はかですよね?
浅はかでないとすれば
よっぽどいい会社にお勤めなんでしょうね。
そんな言い方じゃ通じないのがふつうと考えましょう。
あなたはこのひとことで30個くらいの習慣改善を求めているとします。
それによって1ヶ月で500個以上の行動が目に見えて変わると期待しています。
でも、
言われたほうの部下はDKDCシンドロームですから、
だからけっきょくどうせえっちゅうねん?
っていう疑問だけが頭の中をぐるぐるまわり、
愚痴ばっかり並べたあげく苦しまぎれに辞表を出してきます。
部下の、
与えられた目標を具体的行動に落としこむ能力
を考慮しながら、
かみくだいた個人目標を設定するスキルが
リーダー側の資質として欠かせません。
ブレイクダウンするとは、
細かく分解して具体化するというような意味です。
  • 誰がそれを実行するのか
  • どういうタイミングで実行するのか
  • どういう手順とステップで実行するのか
  • 失敗したときのフォローは誰がどのようにするのか
  • 報告はいつ誰にするのか
‥‥というようなところまでを、
部下ができないうちは上司がやってやらないとしかたがないのです。
しかしもし仮に、
うまくブレイクダウンできたとしても、
それだけでは「やらされ感」がまだ拭えませんね。
社員のひとりひとりについて、
なんのために仕事をするのか?

できるかぎり汲み取り、
社員さんが望んでいる目的地と、
会社の進む方向性を重ね合わせることです。
そこでストーリーなのです。
会社が潤うことと、
個人の生活が豊かになることが、
どんなふうにつながっているのか、
その絵を描いてあげなければなりません。
理屈で言いくるめられるレベルではないんですな、
こればっかりは。
想いが現実化するまでの
ロマンチックかつソロバンチックストーリー
が必要なんです。
会社にとっては、
理念を利益に変えるまでの流れが大切かもしれませんが、
ある社員さんにとっては、
マイホームを建ててしあわせな家庭を築くまでの流れのほうがもっと大切です。
その別々のストーリーが、
どんなふうにからみあって支え合っているかを、
ひとつのストーリーにまとめて語らせるものが経営指針書です。
5年後の組織と自分
というようなテーマを与えてみなさんで作文をしてみてはいかがでしょうか。
わたしは、
他社の経営指針書を添削させていただくとき、
手に取ってまず前半の数ページをパラパラと眺めます。
次に、
真ん中を飛ばして後半の数ページをパラパラ眺める。
こういう飛ばし読みをしながら、
前半で出てきたキーワードが、
後半までつながっているかどうか
をチェックします。
それから、
会社の繁栄と個々の社員の幸福が、
ちゃんとリンクしているかどうか、
ベクトル合わせが意識されているかどうかという視点で読み返します。
理念だけは必死で考えたが、
数値計画がない‥‥とか、
個人目標まで手がまわらなくて、
社員さんの顔も名前も見えてこないとか‥‥。
ま、悲しいことに、
経営指針成文化セミナー受講者の、
半分以上がそのパターンですが、
そんなもんは経営指針書ではありません。
>経営指針書を10回つくったら、
>想い描いたとおりの経営ができる。


中小企業家同友会の代表理事さんから教わりました。
それってつまり逆にいえば、
10回くらいはつくってみないと、
なかなかサマにならない‥‥って意味なんでしょうね。
組織づくりのはじめに
心のベクトル合わせが必要なのだということを、
今日のお互いの学びとしましょう。